よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第三話 よそみはだめだよ /その伍

***

 インターネットでタルパの情報に行き着くまで、成瀬美和は友達がほしくてたまらなかった。だから、高校デビューでつまずいて中途半端な時期でも友達はできないものかと、すがるような思いで“友達の作り方”について検索したのだ。
 だが、出てくるのは何の役にも立たない情報ばかり。当たり障りのない、それこそ友達がいない人間でも書けてしまいそうな無難な内容しか載っていなかった。
 それでも有益な情報がどこかに載っていないかとあきらめきれずに検索し続けてたどり着いたのが、人工未知霊体タルパの作り方だ。理想的な人格を宿すことができれば、良き友にも良き恋人にもなるという、夢のような存在だ。
 その夢のような存在を生み出したとき、成瀬はもう他に何もいらないと思ったほどだ。それこそ、友達なんていらないと。
 学校でどれだけ孤独感と疎外感に苛まれて惨めな思いをしても、家に帰れば優しい恋人がいる。同じクラスにいけ好かない子たちは何人かいるが、その子たち全員に彼氏がいるわけではない。それなのに自分にはいる。それがかなりの優越感だった。
 ただ恋人がいるわけではなく、とても理想的な恋人がいるのだ。優しくて穏やかで、そしてとびきりかっこいい、素敵な恋人が。
 家に帰るまでおしゃべりはできないが、それが逆に恋人っぽくていいと思っていた。恋人は、四六時中一緒にはいないものだ。離れている時間があるからこそ、一緒にいられるときの愛しさも増すというものだ。
 おしゃべりをしたり、スマホで動画を見て楽しんだり、成瀬がゲームをするのを見せたり、ごく普通の恋人たちがするようなことをしていつも過ごしている。触れ合うことと外に一緒に出かけること以外、何でもできる。
 だから、成瀬は本当に友達なんかいらないと思い始めていた。初めは強がりで思っていたことだったが、いつしかそれは本音になっていた。
 だが、その思いを変えてしまうような存在が現れた。
 うるさくて図々しい、ひとりのクラスメイト。たまたま選択教科の授業が同じで、他に組む相手もいないからペアになっただけで、それ以降もやたらと絡んでくる子だ。成瀬と違って人当たりがよく、他に友達もいるはずなのに、なぜか一緒にいたがったり自分が属しているグループとの会話に混ぜたりしようとする。
 そんな子とつるんでるくらいだから、他の子たちも感じがいい。もしかしたら、友達とやらができたのかもしれない――成瀬はそう考えてしまった。
 それが、いけなかった。

『美和、どうして?』

 ある日帰宅すると、いつもは優しく『おかえり』と言って出迎えてくれるはずの恋人が、不機嫌な顔で言った。激情を顕にしているわけではないが、怒っているのは伝わってきた。
 そのときに、成瀬は思い出したのだ。タルパを所持するにあたっての、禁則事項を。
 嫉妬させてはいけない。
 寂しがらせてはいけない。
 交流を欠かしてはいけない。
 正気になってはいけない。
 それが、タルパを持つ者に課せられたルールだ。こんなの、破るわけがないと成瀬は思っていたし、この半年以上の間、ずっと守ってやってきていたのだ。孤独だから、できたことだ。
 だが、成瀬は孤独ではなくなってしまった。それを、“理想の恋人”は許しはしなかった。

『美和、どうして?』
『俺がいれば、ほかに何もいらないって言ったのに』
『よそみはだめだよ。俺だけ見てて』
『ひとりにしないで』
『俺には君しかいないのに』

 家に帰れば和やかに会話をしていたはずなのに、いつの頃からかそうした恨み言が増えてきた。なだめても、許しを乞うても、また時間が経てば思い出したかのように恋人は成瀬を攻め立てる。
 そのことに徐々に嫌気がさしてきて、恋人と話さなくて済む学校で過ごす時間が成瀬にとって救いの時間になりつつあった。それに、学校では会話をする相手ができた。人付き合いがうまくない、可愛い受け答えができるわけでもない成瀬に、めげずに話しかけてくれる人が。
 だが、学校にはついてきていない、話ができないと思っていた恋人の声が、ついに学校でも聞こえるようになってしまった。成瀬が誰かと一緒にいると、おしゃべりをすると、恨めしそうに声をかけてくるのだ。
 それでも、小さな呪詛の言葉をたまに囁かれるくらいなら我慢できていた。しかし――。
 
『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さ』

 ある日、授業中に耳元でそんなことを延々大きな声で聞かされて、成瀬は耐えきれなくなった。
  

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