よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第三話 よそみはだめだよ /その漆


「やめて……本当にこういうの困る。ほっといてよ!」
「ほっとけないよ! だって、友達が授業中にいきなり叫んで教室飛び出したら、追いかけるでしょ?」
「……あ、あんたなんか、友達じゃないし!」

 女子の言葉に、琴子は傷ついた顔をした。だが、言った本人も苦しそうな顔をしている。というより、琴子より傷ついている様子だ。
 その原因なのか何なのか、女子の背後の気持ちが悪いものが女子に向かって何かを叫んでいた。何を言っているのか、琴子にはもちろん駿にも聞こえてこない。だが、そいつの言っていることのせいでその女子がおかしくなっているのはわかった。

「……ひとりになる……友達なんていらないから……あなただけでいい。もう欲張らない……」

 耳を塞いで、俯くようにしながら女子はブツブツ言っていた。怯えている。どう見ても、背後にいるやつに脅されている。だが、琴子には見えないし聞こえないから、ただただ戸惑って傷ついた顔をしていた。害なしとみなしているからか、後ろの金剛力士像は特に動く様子はない。

「おい、あんた。コトラ……男虎が心配してんだよ。あんたに友達なんかじゃないって言われても、怒ることもなくここにいるんだぞ。後ろにいるよくわからん男に何か言われたからって、冷たくしていい相手じゃないだろ!」

 カバンから取り出したお清めスプレーを取り出して吹きつけながら、駿はその女子に啖呵を切った。本当は変なものに憑かれた人間に声をかけるなんてしたくないことだ。だが、その女子の意識を背後にいるやつから、こちらに引き戻す必要があると考えたのだ。
 すると、それを聞いた琴子が何かに気がついたようにハッとした顔になった。それから、その女子に一気に近づいた。

「彼氏に、モラハラされてるんだね? 嫉妬深いモラハラ彼氏に、『友達と縁を切って俺だけ見てろ』って言われたんだね?」

 何をどう解釈したのか、琴子はそんなふうに捉えたらしい。その女子の肩を掴み、ぐっと顔を覗き込もうとしている。

「人の彼氏のことどうこう言うのは、よくないってわかってるけどさ。友達と縁を切らせようとするやつなんて、禄でもないよ? 成瀬さんは、彼氏の言うように私と縁切りたい?」

 琴子が落ち着いた声で尋ねると、弱々しく首を振った。琴子には、それだけで相手の意思表示は十分だったのだろう。

「それなら、縁切らないでいよう? 友達だよ」
「無理だよ……無理……私がひとりにならなきゃ絶対許してくれない……」

 成瀬と呼ばれた女子は、いやいやをするように首を振った。その合間にも「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と呟いている。
 琴子の目には、成瀬がただ精神的に追い詰められているようにしか見えないだろう。だが実際には、すぐ背後にいるものに何事かを叫ばれ、それに対して狼狽えているのだ。背後のものの雰囲気から、恨み言の類いであるのは間違いない。
 そんなふうに追い詰められる成瀬を見て、琴子の表情がさらに凛々しくなった。

「無理じゃない! 私がついてる! だから、怖くないよ!」

 そう言って琴子は、成瀬の背中を叩いた。一度だけではない、二度三度と繰り返しだ。
 そうして琴子が成瀬を叩くとき、琴子の後ろのゴツイ守護霊もまた、成瀬の背後のものを殴っていた。右ストレート、左ストレート、そしてトドメはアッパーだ。
 琴子に背中を叩かれた成瀬は突如ハッとなって、それから安堵したかのように涙を流した。背後にいた気味の悪いものも、すっかり雲散霧消してしまっていた。
 すべてを見届けても自分以外それを知る者がいないため、駿は手持ち無沙汰になった。だから仕方なく、成瀬の背中に何度かお清めスプレーを吹き付けておく。そんなことをしなくても大丈夫なのは、わかっているのだが。

「ていうか、こわたん先輩は何でこんなところにいるんですか?」

 落ち着くと、琴子は駿の存在に改めて気がついたらしい。胡乱げな目で、お清めスプレーを片手にへっぴり腰になっている駿を見つめる。助けてやったというのに、隣の成瀬も怪訝そうに見てきた。

「と、トイレに行こうとしたらコトラの声が聞こえた気がして、やばそうな空気だったから追いかけてきたんだよ」
「トイレ? 授業中に?」
「そ、そういうこともあるだろ?」

 駿の言い分に最初は疑うような視線を向けてきた二人だったが、少しして何だか可哀相なものを見る目に変わった。
 そして二人して手を取り合って、二階に戻るために階段を登り始めた。

「先輩も、ちゃんと教室に戻ってくださいね。……ちゃんとトイレに戻ってから」

 琴子はそう言うと、さっさと行ってしまった。
 残された駿は、やるせない気持ちになる。

「やだ俺……頻尿かお腹ゆるいやつだと思われたんだ……」

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