よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第四話 山から呼ばうもの /その弍

 夜宮高校に通うある男子生徒たちも、あるとき山のほうで何か不思議なものを目にした。
 それは日が沈んだ、夜の始まりくらいの時間だった。そんな時間に高校生がなぜ山を見ていたかというと、部活動のためだ。彼らは天文部に所属していて、星について学ぶことと実際に星を見るのが活動内容だ。
 だが、夜宮高校は屋上への立ち入りを禁止している。安全対策のために禁止している学校も多いと聞くが、部活などによる使用は例外的に認められている場合もある。
 しかし、夜宮高校ではそういった例外はなく、それどころか屋上へ続く階段は常時鎖で封鎖されており、屋上に近づくことすらできない状態だ。
 そういった理由で天文部の男子生徒たちは星を見るのに屋上へ出ることが叶わず、いつも三階の窓から観測していた。時期が悪いと野球部のためのナイター照明に邪魔され、それがなくても周囲はさほど暗くないため、お世辞にも星を見るのに適した場所とはいえない。
 部と名乗っているものの、正式に活動している者はその男子生徒たち三人しかいない弱小部だから、活動内容がそんなお粗末なものでも仕方がない。部としての存続条件を満たすために必要な残り二人の部員は、帰宅部のクラスメイトに拝み倒して名前を貸してもらってごまかしている。
 部員も足りず星を見る環境にも恵まれず、それでも男子生徒たちが天文部を守ろうとしているのは、ひとえに星が好きだからだ。宇宙に魅力を感じているからだ。
 だからあるとき、男子生徒たちは思いついたのだ。学校を出て、外で星を見ようと。
 確か学校の裏手を抜ける道のほうは暗くて、そこから山のほうは民家が少なくなっている。徒歩通学組が使っている平坂と呼ばれる坂道をほどよいところまで登れば、星を見るのに適した場所も見つかるだろうと考えたのだ。
 少し前まで、平坂にやばい噂が流れていたのは男子生徒たちも知っている。後ろからついてくるものがあるとか、それに捕まると大切なものを奪われるとか、そんな物騒な話が。だが、最近になって「あれは『べとべとさん』なる妖怪で、ついてくる気配がしたら『べとべとさん、お先にお越し』と言って道を譲ると大丈夫」などという話が流れてきたことによって、平坂周辺の緊張が和らいだ雰囲気だ。
 この手の怖い話は、対処法が流布されると途端に勢いをなくすものだ。その対処法をかいくぐるような怖い話が流れるまでは、安全が保たれているのではないかというのが、男子生徒たちの共通した意見だった。誰もそれを、はっきりと言葉にしたわけではなかったが。
 天文部の男子生徒たちは全員がバスや電車で通学しており、そのため平坂へは行ったことがなかった。だから、これから夜が深まっていくという時間帯に不慣れな場所に行くという不安はあった。
 徒歩通学組がもう少し外灯が欲しいと愚痴っていただけあって、大きな道よりも暗い。普通なら、暗いと感じる道を怖がるのだろう。だが、男子生徒たちは天文部だ。
 理想的な暗がりをありがたがり、坂を登って少し開けた場所に陣取った。
 設置するのは、小さな天体望遠鏡。何代か前の先輩たちが自分たちでお金を出し合って買ったらしい、安物の天体望遠鏡だ。
 それでも、部員たちにとっては大事な部活の道具で、丁寧に慎重にセッティングしていった。安物だから、月のクレーターをはっきり見ることくらいしかできないが、望遠鏡を通して空を眺めることは男子生徒たちにとってはとても大切なことだったのだ。
「あれ、なんだろう?」
 セッティングして、ピントを合わせて、さあ観測しようとなったときに、部員のひとりが言った。山のほうを指差している。古くからある住宅地の後ろにそびえる山だ。
 ひとりの声に反応して全員が山のほうを見ると、何か、小さな光のようなものがゆらゆらしていた。
「何あれ? UFO?」
 ふざけてそんなことを言ってみたが、光が見えたのは空ではなく山だ。光はゆらゆら、ゆらゆらと、意味深な動きを繰り返していた。
 男子生徒たちは天体観測そっちのけで、その光に見入っていた。
 だが、しばらくそれに見入っていると、不意に彼らがいる場所が暗くなった。月が雲に隠れたのだ。わずかな外灯と月の光によって照らされていたのが月が陰って、それで暗くなったのだ。
 ほんの一瞬、そうやって気持ちがそれていた隙に、山の光はなくなっていた。そのことに気がついた途端、男子生徒たちは唐突にぞわっと怖くなって、慌てて望遠鏡を片付けて坂道を下ったのだった。

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