よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第六話 人を呪わば /その玖

「だってあの子、私のこと見下してた……自分に気のある男子を、面倒だからって私に押し付けて……それなのに『あいつ、あんたのこと好きみたいだよ』とか嘘ついて……私それ、少しの間、信じてて……ひどい……なんでこんな惨めな思いさせるの……!」
「それは、確かにひどいわね。でもだからって」
「わかってる! わかってるよ、そんなの! でも呪っちゃったから仕方ないじゃん! ちょっと苦しんでほしかったの! あの子ばっかりズルいから、少し痛い目見ろって! でもでも! もう……こんなの止めたいよぉ……」

 花田が女子生徒の行いをたしなめようとすると、彼女は過剰に反応した。他人に責められるまでもなく、自分で自分を責めてきたのだろう。責めたところで現状は変わらず、女子生徒は苦しむばかりだ。その苦しみに呼応するように、黒い影は喜んでいた。笑い声は高ぶりすぎたのか雄叫びのようになり、女子生徒を覆う黒い煤のような靄も濃くなっていく。
 このたちの悪い何かは、呪いの対象か実行者の苦しみを糧にしているのだろう。だから、実行者が苦しんでいる今、喜々としている。その醜悪な姿に駿は恐ろしさを通り越して、怒りを感じるようになった。

「せ、先輩! そんな汚いものが身近にあるのがいけないんですよ! 人形とか腐った魚とか、捨てちゃいましょ! 何だったら私、お掃除とか手伝いますよ!」

 この場の空気をどうにかせねばと思ったのだろう。琴子が突然そんなことを言い出した。女子生徒はその言葉にハッと顔を上げ、すがるように琴子を見た。
 その姿を見て、駿はだめだと思った。簡単に人を恨んで呪うような人間は、自力でなんとかする気がない。こうして今、琴子が手を貸してしまったら、この女子はまた今後も同じようなことを繰り返すだろう。そのときもまた、困れば誰かが何とかしてくれるから、と。
 それに、これは素人がどうにかできるものではないと駿は考えている。

「そんなヤバイもん、一般ゴミで捨てるな。収集業者さんが困るだろ。……呪ったんなら、適切な処理の仕方ってもんを考えろよ」

 駿が怒りに任せて低い声で言うと、琴子も女子生徒もしゅんとした。それを取りなすため、それまで黙っていた源が、駿の肩を叩いた。

「こういう場合、一番現実的なのはお寺さんなどに持っていってお願いすることだろうね。お祓いもできたらしてもらったほうがいい」

 源が言うと、女子生徒は戸惑った様子だったし、花田はあからさまに小馬鹿にしたような態度になった。寺なんて大袈裟だと思ったのだろう。目の前にいるおぞましいものが見えないから、そんな舐めた態度が取れるのだ。

「じゃあ、きっちり自分で処理しろ! 木炭を用意して、焼却炉みたいな蓋が閉まるような設備で高温にして焼き尽くせ。お焚き上げってあるだろ? あれは悪いもんを火で浄化するんだよ。あれを自分でやれるのか? 無理だろ? それならプロに任せろよ」

 駿が言うと、女子生徒はより一層うなだれ、花田もさすがに態度を改めた。「焼却炉は、ねえ? 法律でだめだって、もう何年も前になったじゃない。ダイオキシンが出るとかで……」などともごもご言っている。
 それでも、この場において駿と源以外は、呪いというものの厄介さを理解していないだろう。見えていないから。うっすら実感しているものの、目で見ない限り心の底から認めることがないのだろう。そのことに、駿は嫌気がさした。

「呪ってやろうと思って実行に移した段階で、呪いはあるんだ。それがいくら信じられないことでもな。あるもんとして扱ったんなら、最後まであるもんとして向き合え。適切に処理しろ。……中途半端にオカルトに関わんな」

 これは源以外の全員に向けた言葉だった。見えないくせに面白がるようにオカルトに関わる、すべての人間に向けての言葉だ。
 自分でも八つ当たりじみていると思ったが、それでもその場にいる人間の胸には何か刺さったようだ。

「……わかりました。それなら、担任として私が責任持って、彼女と一緒にお寺にいきます。源先生、お時間をとってくださってありがとうございました。小幡くんも……ありがとう」

 もうこれ以上ここにいたくないと思ったのか、花田は女子生徒と一緒に頭を下げ、生徒指導室を出ていった。黒い影は自分の身に起こることを察知したらしく、唸り声を上げていた。

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