よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第七話 百に届かぬ物語 /その肆

***

 昇降口で待ちぼうけを食らっていた駿は、突然の電話に驚いた。
 スマホの着信表示を見れば、琴子からだ。待ち合わせに遅れる旨を伝えるならメッセージでいいのにと思いつつ出てみて、すぐに違和感を覚える。

「……なんだ?」

 受話口から聞こえてくるのは琴子の声ではなく、ガサガサとした何かが擦れるような音だ。ポケットの中で誤作動してかけてしまったのかと思ったが、それにしてはどうにも不自然だ。
 外に面した昇降口はガヤガヤしているため、何か聞こえても聞き逃してしまいそうだ。だから駿は静かな場所へ移動して、改めて耳を澄ませた。

『……よくわからないので、わかりやすく説明してください』

 少しすると、琴子の声が聞こえてきた。よく聞こうと、受話音量を上げる。

『そうだね、まずはルール説明もしなくてはいけなかったしね。百物語っていうのは、文字通り百個の怖い話をするんだ。ここには十人しかいないけど、実は有志を募ってもう百物語は始められているんだ』
「……!」

 電話の向こうから聞こえてきた声に、駿は思わず「は?」と言いそうになった。
 待ち合わせにやってこない琴子。その琴子からの不自然な着信。聞こえてくる不穏な会話。
 それらを合わせて考えて、今彼女が何か大変なことに巻き込まれているのがわかった。百物語などと、穏やかではない単語が聞こえてきた。
 これはもしかしたら、助けを求めているのかもしれない。逃げ出したいがそれができず、こうしてこっそり電話をかけて自分の置かれた状況を知らせようとしているのかもしれない。
 それならば絶対に電話を切ってはいけないし、助けに向かってやらなければならない。だが、そうだとしても駿ひとりでは不安なため、源に知らせなければならない。

「くそ……」

 メッセージか電話で知らせられればよかったのだが、スマホは今、琴子との電話で塞がっている。それならば職員室に直接行くしかないと、駿は走り出した。
 スマホをポケットに入れて職員室に駆け込むと、タイミングよく教師はまばらにしかいなかった。
 スマホの存在をごまかす必要はないと判断し、駿は再び電話に集中しつつ源のところへ行った。

「え? 小幡くん、どうした?」

 自分の席で山かけ蕎麦を食べていた源は、スマホを耳にあてた状態の駿を見て驚いた。

「書くもの? わかった」

 ジェスチャーで筆記用具がほしいと伝えると、源はすぐにメモ帳とペンをくれた。

『コトラ ピンチ 百物語』

 駿はそう記し、スマホを指差した。察した源は、そこからの音を聞こうとスマホに耳を寄せた。
 そうしている間にも電話の向こうで会話は進んでいたため、新たに加わった情報をメモに記した。

『ネットの有志 百個 掲示板』

 その文字を見て、源がハッとした顔になる。駿だって、事態のヤバさはわかっていた。

『これは、あるひとりの少女に捧げる百物語だ。その少女は、夜宮高校に通っていた子でね、怪談が大好きだったんだ。学校というのは怖い話や不思議な話が集まりやすい場所だけど、この夜宮高校は古いぶん、それが顕著だ。彼女は入学してからせっせとこの周辺の怪談を集めたよ。集めたものは積極的に人に広めた。それが楽しくて仕方なかったんだけど、そのうちに満足できなくなってね……彼女は、自分が怪談になろうと思ったんだ』

 電話の向こうでは、すでに百物語が始まっているようだ。男の声で、静かに語られている。それを聞きながら、今度は源がメモに何か書いた。

『家庭科室? 呼び出し』

 その意味はわからなかったが、琴子が家庭科室にいるらしいと理解した駿は、そこへ向かうことにした。スマホとタブレットを手にした源も、そのあとに続く。
 幸いなことに、職員室から特別棟への連絡通路はすぐだった。だが、通路を走り、特別棟へ入ると、事態のまずさに気がついた。

「暗いし、何か空気が変だ……」

 まだ昼間のはずなのに、特別棟の廊下は暗かった。まるで間もなく夜がやってくるというような、そんな暗さだ。

「そんなことより家庭科室!」
「そうだった」

 源に言われ、駿は慌てて家庭科室の戸にかけよった。開けようと戸に手をかけるが、びくともしない。それどころか、ガタガタという音すら立たない。

「なんだよこれ……固定されてるみたいだ」

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