よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第七話 百に届かぬ物語 /その伍

 電話の向こうでは男の淡々とした語りが続いていたが、それどころではなかった。
 目の前の戸は絶対におかしい。おかしいということはこの中に琴子がいるに違いないのに、叩いても蹴っても戸が動かなくて助けに行くことができない。
 源は駿が戸と戦っている間ずっとタブレットをいじっていたが、何かを見つけたらしく動きを止めた。そして、そのタブレットの画面を駿に見せてきた。

「なに? 『怪談が好きすぎて自らも怪異になりたくて自殺した女子高生に捧げる百物語』……って、コトラが巻き込まれてるやつか?」
「そう。どうやら男虎さんを呼び出した人……三郎丸先生は、百物語であの自殺した女子を呼び出したいらしい」
「は? え……何だよ、それ……」

 意味がわからなくて混乱するが、電話の向こうの様子が変わったのに気がついたため、そちらに集中した。
 
『……というのが、彼女の話だ。怪異は、怪談は語られてなんぼだ。彼女は自分が死んだあとたくさんの人に長く自分のことを知ってもらうために、自分のことを書き記したものをこの学校のどこかに残したらしいよ。――これで、僕の話はおしまい』

 男は、三郎丸は、語り終えた。その瞬間に、明らかに空気が変わった。

「三郎丸先生は、たぶん自殺した女子生徒に利用されてるんだ。彼女は自分が怪異になるために、こんなことをしてる。……ということは、この学校内に彼女はいるんだよね。百物語を止めるよりも、彼女をどうにかするほうが早いし現実的かもしれない」

 そう言って源が差し出してきたタブレットを見ると、スレッドはも300くらい消費されていた。そのほとんどが雑談だが、怪談がちらほら書き込まれる頻度は思ったより高い。このぶんだと、スレッドの書き込み上限である1000レスに到達するまでに、余裕で百話集まるだろう。

「そりゃ、いるだろうよ。この前、わざわざ『いるよ』なんて書きやがったんだから。……何か、自分のことを後世に伝えるために書き残したものをどこかに残してるって。怪異は、人に語られてこそだからって」
「……そうか! ただの幽霊と怪異の違いっておそらく、倒し方とか対処の仕方があるかないかだ。ほら、口裂け女とかひきこさんとかは弱点があったでしょ? つまり、自殺した彼女のことを知ることができれば、倒し方なり何なりわかるかもしれない」

 言いながら、源はタブレットをずっと操作していた。おそらく、ネットの掲示板なんかをどうにかしてくれようとしているのだろう。
 本当なら、この自殺した女子の霊に関するものを探しに行くのに源にもついてきてほしかった。だが、これは自分ひとりでどうにかするしかないのだろう。
 
「……そいつのこと何かわかれば、弱点とかわかれば、コトラを助けられるかもしれないんだな。だったら俺が探してくるから、先生はここにいてください。中の状況が変わるかもしれないんで」

 本当はすごく嫌だったが、駿はそう言って走り出した。 
 廊下の異様な暗さや空気の淀みみたいなものから、今自分がおかしな場所にいることはわかっていた。学校だが、学校ではない。おそらく、次元が違う場所に来てしまっているのだ。
 それがわかっているから本当は動き回りたくなどなかったのだが、じっとしていても埒が明かないのも理解していた。きっとここは、自殺した女子生徒の作り出した空間だ。つまりそいつのテリトリーにいるということは、無事に帰るためには、倒すしかないのだろう。

(俺、見えるだけのただの怖がりなのに……力とか、全然ないのに……)

 駿は弱気になりそうな自分を奮い立たせ、まずは屋上へ続く階段を目指すことにした。 
 

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