よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第七話 百に届かぬ物語 /その陸

***

 蝋燭の明かりだけが頼りの、異様な暗がりの中で琴子の意識はぼんやりしてきていた。
 眠いわけではなく、意識にうっすら膜がかかった感じというのか。その暗がりの中、同じ空間にいる人間たちもトランス状態に陥っているように見えた。

「これは、私が子供の頃の話なんですけど」

 一本、また一本と蝋燭が消され、次の人間が話し始めた。
 百物語のルールに倣って、自分の番が来て話し終わると、目の前の蝋燭を吹き消すのだ。そうやって順番に進めて、今は五本の蝋燭が消されてしまっていた。

「私の家では、時々百合の花の匂いがしていました。花を活けているとか近くで咲いてるとかいうことは全然なくて、唐突に香ってくる感じで。それで物心ついたときから、家には何かいるんだなって知っていました。ほら、幽霊って匂いがするっていうじゃないですか。大抵は血とか生臭いとか悪いにおいの話で、花の匂いの幽霊っていうのはあんまり聞いたことないですけど。小さいときからずっと感じてて、あるとき母に『うちって時々、百合の花の匂いするよね』って言ってみたことがあるんです。そしたら母がものすごく嫌そうな顔をして『お母さん、百合の花は大嫌いなの』って言ったんです。
 そのときは、なんでお母さんが嫌そうにしてたのか、ちょっと怒ってるっぽかったのかわからなかったんですけど、ある日それが理解できました。私、見ちゃったんです。お父さんの書斎の机で、何か楽しそうにしてる女の人の幽霊を。それを見て、あの百合の花の匂いはお父さんに憑いてる女の幽霊の匂いで、だからお母さんは嫌がってるだろうなってわかりました。
 でも、その家から引っ越したら百合の花の匂いなんてしなくなって、その幽霊も見てないんで、結局それがなんだったのかわかりません」

 淡々と話し終え、その人はふっと蝋燭を消した。またひとつ明かりが消え、暗闇の濃度は増す。
 それからも順番が来ると誰かが話をし、ひとつ、またひとつと蝋燭が吹き消されていった。
 明かりが消えること、暗さが増していくこと、それにより空間の異様な空気が濃度を増していくことが、琴子は怖かった。
 だが、そんなことよりも琴子を不安にさせているのは、自分の番が来たとき何を話せばいいか全く思いついていないということだった。
 元々、来たくて来た百物語の会ではない。それに、駿と出会うまで……というより、この前のことがあるまで、幽霊なんていないと思って暮らしてきた。見たこともなかったし、怖い体験をしたこともなかった。だから、語るべき話なんて持っていないのだ。
 UFOのことやツチノコなんかのことなら話せそうだが、この雰囲気の中、地球外生命体の話なんてしたら、きっと別の意味で恐怖体験をしてしまいそうだ。
 だから順番が迫って来るまでの間、琴子は他の人の話に耳を傾ける余裕もなく、何を話すべきか必死で頭を悩ませていた。

(電話、繋がってるぽいけど……こわたん先輩、早く助けに来て!)

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