恋慕坂【完】

午前十一時



いくつか電車を乗り継ぎ元居た街から大きく外れると、閑散とした駅前からバスに乗った。


三時間に一本しかないバスは運よく十分と待たずして乗り込むことが出来て、無駄な時間を過ごさずに済んだことは幸先がいいと言えるだろう。


「次は末通、末通村(スエドオリムラ)ー」


過疎化の一途を辿る地域のバスの乗客は俺一人しか居ない。

"ピンポン"と静かなバス内にやけに抜けた音を響かせると、三十分ほど揺られたバスを降りた。


「……懐かしいな」


思わず俺がそう呟いたのは、ここに来たのが随分と久しいから。


最後に来たのはいつだったか、ここは俺の生まれ育った村だ。

辺り一面が緑で覆われた地に、今はもうさほどの人口は残ってはいない。


つまり、酷く寂れた村。


子供は義務教育を終えれば八割方は村外に出るし、村外で教育を終えて戻ってくる人間はもうここ最近では稀有(ケウ)と言っても過言ではないだろう。

かく言う俺も、その一人だ。

俺の場合は家族と一緒に村を出たから、ケースが違うと言えば違うが。


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