恋慕坂【完】

午後一時


少女に吸い込まれる俺の意識を正したのは、また少女だった。


いや、少女というには大人びている。

だけど女というには、それとして不完全なような気もする。


じっと見る俺の視線を、女がどんな顔をして受け止めていたのかは知らない。


けれどはっと気が付いたときには、女がその顔に柔らかな笑みを浮かべていた。


「………」


一体何をしているんだろうか、俺は。


そうだ。

立ち去るんだ、ここから。


立てられていたはずの簡単な予定を思い出せば、俺は一歩後ろに置いていた足をにじって踵を返そうとした。


だけど、出来なかったのは――


「――……」


最後の最後まで惜しむように女に残した視線が、女の動いた口を捕らえたから。

しかし音こそ捉えられず、もちろん都合よく読唇術なんて持ち合わせていない俺は、小首を傾げることしか出来なかった。


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