恋慕坂【完】

午前九時

「加賀(カガ)さん、第一診へお入りください」


ここは病院の待合室。


隣に座る母は呼ばれた名前に俺を見て、それに俺は静かに立ち上がった。



「おはようございます」


「やあ、おはよう。座って?」


白衣を纏った紳士的風貌の先生が目の前の簡易イスを指したので、俺は促されるままそこに着席した。


「どうだい?調子は」


「まあ、いいんじゃないでしょうか。最近は可笑しな妄想もしてないし、何より元気だ」


「そうかい。変わったこととかも?」


「ええ」


「…相変わらずってところ、か」


「まあ、そうです」

先生は「そう」と小さく言うとカルテにミミズのような字を走らせる。

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