恋慕坂【完】

午後二時



息を飲む音を、遥か下方から波が崖下にぶつかり重吹(シブ)く音がかき消した。


俺の顔には酷い動揺が浮かぶ。


「……それ、は……」


女の告白に分かりやすく戸惑った俺は、喉に物でも詰めたみたいに言葉をつっかえさせた。


「っ、ふふ」


女はそんな俺の顔を一瞥すると噴出したように笑う。


あどけない少女の顔を見せる女に、俺は肩を落として気を休めた。


「なんだ、冗談?」


そう聞いておきながらも女の様子にすっかり緊張を解いた俺は、両手を後ろに置いて上体を任せる。

心も体も休んだ体制に「はあ」と息を吐くと、ペコリとお腹がへこんだのをがっくりと落とした頭で確認した。


女は穏やかな俺に、尚も笑いを口先に残したままどこか厳しい視線を送る。


「いいえ」



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