Help (完)

第一幕:狼と出会った /恐怖、再び







「お前……」





音もなく、狼の足が1歩だけ近づく。

反射的に肩を震わせた私は慌てて背中を壁にくっつけた。







────危険だ。

助けてくれたようにも思うけど、私の本能がそう告げていた。






じっと見つめ合う。

赤い瞳が炎のように揺らめきながら私を観察する。上から下まで、ゆっくりと何往復もする獣の瞳は「捕食者」としてのギラつきを感じる。








危険だ。

ごくりと息を飲む。



いつでも逃げられるよう彼の動きを見逃すまいと目をそらす事ないまま、両手は自らの乱れた服をたぐりよせて素肌を隠す。

その時素肌がねっとりと湿っていることに気がついて、さっきまでの自分を思い出してゾッとした。



体はみっともなく小刻みに震えている。

恐怖が今頃になってはっきり体に現れた。




どうしよう。こわい。目の前のこの人も私を襲うことが目的だったらどうする?



歯を食いしばって睨むように彼を見据えた。

どうか近づいてくれるな。どっかいけ!



全力で威嚇の念を送る。





その時だ。彼の視線がふっとそれた。

赤い瞳が私の3メートルほど前を捉えたことを見逃さない。


そこにはくしゃくしゃの布切れが落ちて……って、あ!






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