Help Ⅴ(完)

第十八幕:選んだ結末 /達観




狂気的に目をカッ開いて、襲いかかってきた赤い瞳の獣。

その姿を網膜に焼き付けながらも、引っ張られるがまま後ろに倒れてそのままの勢いで床に座り込んでしまう。




さっきまで私が立っていたところに、彼は大きな肢体をゆらりと揺らし、佇んでいた。



もしもミカちゃんに引っ張られなかったら、私はあの大きな腕に捕らわれていたのか。

あの骨ばった手に捕まれていたら、私なんてひととまりもなく骨を折られていたかもしれない。



そう思うほど、乾いた瞳が恐ろしく狂っていた。






はっ、と息を漏らしていると彼が体をこちらに向ける。






「っ」




視線で胸倉を殴られる。

少し見据えられただけで、心臓が痛んでうまく息ができない。




胸の前で両手を握りしめて「来るな」と心中で喚き散らす。





「お前は……」





低い、押し殺した声が響いた。

垂れた前髪の向こうに見える赤い瞳がギラリと光り、獲物を見るかのようにこちらを睨みつけてくる。





常軌を逸した風体にすっかり飲まれきった私は、手だけでミカちゃんのそれを探し、必死に握りしめる。

肌で、確かに感じていないとその場で気絶しそうだった。


我を保つには、自分自身だけの力では不可能だった。





けれど、狂信的な態度を見せる獣は私の心中など1ミリも察そうともせず、見下す瞳で私を射すくめる。





「お前は……俺に、えと……言うのか」






唇が震えて答えられない。





「俺に……っ、不毛な戯言を……! ────って、どうなる……」




獣が、両手で顔を覆った。

頭を抱え込むように、弱々しく垂れた姿は王者の風格も、悪魔の面影もない。



ただの、混乱した人間──



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