心月の夜想曲 上弦 【完】

月蝕のようにゆっくりと・・・ /三月蝕

ずっと、ずっと、脳内で、あの場面が繰り返し再生されて、胸を掻き毟りたくなる気持ちを抑えた。


やだ、やだ、ゆっちゃんは、私のものなのに。


どうしようもないくらい痛くて苦しい気持ちを抱え、正門の前で待つ送迎車に乗り込んだ。



校舎裏に居ない私を心配しているのか、ゆっちゃんから何度か電話がかかってくるけど、私は無視をする。


それから数分もしないうちに、送迎車に向かって、ゆっちゃんが走ってくるのが見えた。



「葵様、先に乗っていらっしゃったのですか」


ゆっちゃんは、ドアを開けるなり、安堵の表情を浮かばせながら、少し息を切らしてそう言った。


いつもの約束の場所にいなかった私を探してくれていたんだろう。



私が校舎裏でゆっちゃんを待たない日は、今までなかったから。



心配かけた…?


でも、いつもなら言えるはずの、『ごめんね、ありがとう』が、素直に言えない。



ゆっちゃんが乗り込み、シートベルトを締めるのを確認した佐原さんが車を発進させて、帰路につき始めた。


自然と目が、ゆっちゃんの口元へといってしまう。


「今朝、迎えに上がると…」


ゆっちゃんは、校舎裏ではなく車の中で待っていた私に不思議そうな表情をして、おずおずと言った。



「…あそこにいたくなかったの。今日半日中ずっと、一秒でも早く終われって思ってた」



ゆっちゃんのベタ中のベタの校舎裏で告白の場面に遭遇して、予想外の不意打ちキスされたところを目撃したからいたくなかった…、とは本当のことは言えなかった。


校舎にいたくなかったのも、本当のことだけど、豹変したクラスメイト達の嫌がらせよりも精神的にダメージが大きかったのは、『遠嶺 琴美とゆっちゃんのキス』だった。


『遠嶺 琴美』って名前を思い出すだけでも、虫唾が走る。



「やはり、言われてしまいましたか…」



ゆっちゃんは、私の心中を察するかのように眉を下げて、心配そうな表情をした。



本当は、それだけじゃないんだけどね、ゆっちゃん。





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