心月の夜想曲 上弦 【完】

月蝕のようにゆっくりと・・・ /二十月蝕

旅館のフロントでチェックインをするゆっちゃんの隣でその姿を眺める。


「葵様、ここ、どうします?」


宿泊票の住所と名前の記入欄を指差して、ゆっちゃんは小声で訊いた。


……うーん、こういうのってどっちの住所を書いた方がいいんだろう?


母に黙って嘘ついてゆっちゃんと泊まるなら、やっぱり私の家の住所は絶対にダメだと思うし……。


私が無言で悩んでいると、ゆっちゃんがボールペンを走らせ始めた。


住所の欄にはゆっちゃんのシェアハウスの住所を、名前の欄には『町田 優介』とその隣に『葵』とだけ記入した。


……『町田 優介』、『葵』って、なんだか気恥ずかしい。


心がこそばゆい。


だって、なんだかまるで……夫婦みたいなんだもん。


仲居さんは宿泊票を確認してにこりと微笑むと、部屋に案内してくれた。


露天風呂付きの和室に入る。


目の前に一面に広がる海原が綺麗で、眺望が最高の部屋だった。


後から来た女将さんの旅館や温泉の説明を聞いて、夕食の時間を教えてもらってから浴衣のサイズの確認をした。


「では、奥様のサイズはMで、ご主人の方もMサイズで宜しいですね。只今お持ち致します。では、失礼致します。ごゆっくり」


女将さんは静かに立ち上がると、一旦部屋を後にした。



0
  • しおりをはさむ
  • 23
  • 78
/ 494ページ
このページを編集する