心月の夜想曲 上弦 【完】

月蝕のようにゆっくりと・・・ /五月蝕

藍色の小花柄の、母が父とお見合いをした時に着た振袖に身を包んだ私は、初顔合わせ場所に向かう車中、場所に近づく毎に増していく緊張感に、胸を高鳴らせていた。


「葵、そんなに固くならないで。大丈夫よ」


表情が強張っている私に気付いた母は、私の両手を優しく両手で握りながら、宥める。


「お母さんもそうだったわ〜。一度も会ったことは無いお父さんと対面した時のあの羞恥心と緊張感は、二十年以上前のことでも、鮮明に思い出すわ。ついでに、あの時のお父さんの顔もね」


後部座席から、運転席に向かって、母は悪戯っぽく笑う。


「…何も、思い出さなくていい」


父は、何故だかバツが悪そうに、ぶっきらぼうにそう言うと、それから無言のまま車を走らせる。


そして、私はある事に気付いた。


あまり興味が無かったせいのと、そういう話をする機会が無かったせいかもしれないけれど、父と母の馴れ初めを今まで一度も訊いたことがなかった。


「ねえ、お父さん達はお見合いで結婚したんだよね。互いに何も知らない人同士で、不安とか、そういうのあった?」



母にそう訊ねると、母は、昔のことを思い出すように少し遠くを見つめて、笑顔を浮かべた。





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