心月の夜想曲 上弦 【完】

月蝕のようにゆっくりと・・・ /二月蝕

ゆっちゃんは、自分の腕を私に強引に、力強く掴まれて、引っ張られていても、何も言わなかった。


「葵様、学校に行かれないんですか?」


専属の運転手付きの送迎車が停まっている正門ではなく、反対の方向へ向かおうとする、怒り心頭の私に、ゆっちゃんが話し掛ける。


「気分じゃない」


いつも通りに、登校なんてする気分には、なれない。


「本日は、午前中までですよ?」


ゆっちゃんが、不機嫌で我儘な私を宥めるような口調で言った。


「午前中だけでも嫌。後、絶対に私の家のこと、言われそうだし」


昨夜まで何ともなかったのに、今朝突然、父の会社が倒産し、二進も三進もいかないほど大赤字で、その大赤字から抜け出すには、一人娘である私が、『結城ホールディングス』の社長と高校卒業後、結婚しなければいけなくなった。

当然、大学への道も絶たれ、自分の意思のままに人生を歩めなくなった。


でも、実は、特に今日は学校に行きたくない理由は、私には自由を与えない身勝手な両親に対する怒りから来る反発心だけではなかった。


品行方正で心が綺麗な可憐な少女を、大人の前では演じて、その実態は鵜の目鷹の目で、同級生の誰かが不幸になるのを待って、憂さ晴らしにしようと思っている。


そんなお嬢様ばかりがいる女子校に、今日みたいな日は特にいつもより行きたくない。


「もし、何か言われても、僕がついていますから大丈夫ですよ。如何なる時でも場所でも、お嬢様が不快な気分になった時に、即対処するのが僕の役目でもあります」


ゆっちゃんは、笑顔でそう言った。


「学校違うのに、どう対処するつもり?…ゆっちゃんは、どうしても私を、学校に行かせたいみたいだね」





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