ゾンビ学園~ぼくらの小学校にゾンビが攻めてきた~

「ほどいちゃだめですよ」

吉光の様子を悲しそうにじっと見つめる松林に慶太は言った。

松林は無言で部屋の隅にある戸棚を開き、白い花瓶を取り出した。花瓶はちょうどパイナップルぐらいの大きさで、口はせまくつくられていた。これは一輪ざしの花瓶らしい。

「これです! こんなのが欲しかったんだ」

「手洗い場をまわれば、もっとあるはずだよ。うちの学校は全部これで統一してるはずだから」

「あ、そうか。そう言えばそうでしたね。それじゃあ松林さん、申し訳ないですけど灯油のある倉庫まで案内してくれませんか?」

「いや」と松林は首を振り、「わしはこの子についてなけりゃいかんから」と言った。

「おじさんッ、ひもをほどいてくれよォ!」

その声をききつけたように、吉光は再び苦しそうに言った。その目は正気を失いかけているようで虚ろだ。

「だめだよ、一緒に行こうよ」
 
慶太は焦りはじめていた。

「いや、そばについていてやりたいんじゃ」

「だめだよ、そんなの」

松林が自分の孫ほどの少年の苦しげな声を、じっと聞いていられるとは思えなかった。

ひとりにしたら、きっとひもをゆるめに行ってしまう、そしてその時吉光は松林を襲うだろう。

慶太はそう考えていた。

「アンタが何をやるのかはしらんが、倉庫の鍵は引き出しに入っているから持って行きなさい。倉庫は階段のわきにあるからね」

「だめだよ。……行こうよ」
 
慶太は泣き出したいような気分にドンドン近づいている自分を感じた。

「しつこいぞ、もう行きなさい」

そう言い放ち、あとは何を言っても腕を組んだままで答えてはくれなかった。
 
慶太はついにあきらめ、鍵を手にして部屋を出た。

玄関の方からは相変わらずのゾンビのうめき声が聞こえ、廊下に響き渡っていた。

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