ゾンビ学園~ぼくらの小学校にゾンビが攻めてきた~

第五章 希望 /対決

ゆらり、揺れながら溶子は炎を見つめていた。

血に濡れた唇は炎にあおられ、ぬめりと照り輝いている。

長い髪は、顔のほとんどをおおい隠しながら、だらりと垂れ下がっている。

「ヤロウ……来たな」

伊達は恐れそうになる自分を必死でねじ伏せながら言った。

溶子に対して感じた、声も発せないほどの恐怖心、それを拭い去らねば、俺は奴に殺されてしまう。
 
伊達は思い起こしていた。剣道においてもっとも戒めるべき四つの状態(四戒)、驚き、恐れ、惑い、疑う、その状態に陥ったものは、決断力は欠き、動作は鈍り、自ずから隙をつくってしまい殺される。

おそれてはならない、俺は決しておそれてはいけない。
 
だが、いきなり目の前のゾンビの額に四本の指が生えた。
 
溶子がゾンビの頭を、バスケットボールでも握るように無造作にグイと掴んでいる。ゾンビの額には、まっ赤なマニキュアの、四本の指がずらりと並んだ。

その指の一本は中ほどから噛みちぎられ、不気味な光景をよりいっそう強調していた。

「まだ帰さないよォ……」
 
かすかにうつむいたままでそう言いながら、溶子はグイグイと頭部をつかむ指に力を込めていく。するどい爪先が、ゾンビの額に食い込み、顔面は流れ落ちる血液で染まっていった。

美雪やうさ子は、息もできないほどの恐怖に、目をそらした。

その様子に満足したように溶子はちろりと舌で唇を舐め、血に染まった口元にかすかに笑みを浮かべた。

「あたしのいとしい子供たち……」
 
顔をゆっくりともたげ、至福のため息を吐くように言った。
 
マネキン人形のような人間味のない顔に、かすかにたたえた狂気の微笑、溶子は握りしめていた血まみれのゾンビを、遊びあきたおもちゃのように投げ捨てると、燃え続けている炎の中に無造作に一歩踏み込んだ。
 
溶子の足下からジューと肉の焦げる音がきこえている、溶子の足が靴ごと焼けている。

そして何ともいえない嫌なにおいが美雪たちの元まで漂ってきた。
 
燃えさかる炎を、踏み越え溶子はやって来る。

熱で変形したハイヒールを踏みしだき、裸足になった溶子はゆっくりと近づいて来る。美雪たちとの距離は近く、あと十歩ほどだろうか。

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