bittersweet【完】

第三部 /━foretaste━




「で、……」



口に、出せない。言い慣れてないっていうせいもあるけれど。一番は、脳がまたきちんと理解してないから。



『デート。』

「…。」


なのに。目の前の中野さんは淡々とその言葉を繰り返す。

あまりに自然に口からこぼれたその言葉が不自然なくらい、綺麗に時の止まったリビングに溶け込んだ。



「や、……えっと、」

『雨…、降ってるよな。』



中野さんはコーヒーをまた飲み込んで、視線を窓のほうへ向ける。

はだけたシャツが、男にしては細身の背中を覆っている。



「っ、」



何かに耐えきれなくて、指先がそのシャツの裾を掴んだ。



「……、」


ゆるり、振り返った中野さん。私を見下ろすと。



『ん?』

「…。」



どうした、と。私の髪に指先を通し、そっと腰を引き寄せた。

ちらり、訳もなく棚の上に置かれたマグカップを見つめてしまった。



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