bittersweet【完】

第三部 /━suffocate━




「…、」


あ、と。ぶつかった視線に思わず口が声にならない吐息をもらしたところで。

相手のほうが情けないくらい辟易するものだから、落ち着かない心を持て余す私は瞳を伏せた。



と。

『、紺野…!』



弾けたように吐き出された私の名前。そして駆け寄ってきたのは、兼子くんだった。



ここは大学。講義終了と共にゆらりと中庭に続く渡り廊下を歩く私の前に兼子くんが現れたのだ。



今日は珍しいな。黒のパーカーを着る兼子くんは、凄く申し訳なさそう。

そんな感想を持ちながら、私よりも高い位置にある顔を見上げた。



「…、おはよう。」

『あ、うん、おはよう。』

「…、」

『昨日は、…………ごめん。』

「…。」



頭を下げる兼子くんは、きっと優しい。優しくて、私の悪い部分まで代わりに謝ることで包んでくれる。


なんだか情けなくて苦笑いを浮かべた。




「ごめん、は、私…。」



ごめんなさいと頭を下げる、と。



『、はー………、』

「っ、」


いきなりしゃがみこむ兼子くん。そして両手で顔を覆うと盛大な溜め息を吐いたのだ。

びくり、驚きを目の見開きに比例させて固まる私。



すると。
指の隙間から上目遣いで兼子くんの瞳がこちらを向いた。



『一生口きいてくれないかと思った。』

「…、それは私だよ。」

『なんで!紺野は何もしてないじゃん!』


がばり、立ち上がる兼子くんのフットワークの軽さに一歩後ずさる。ごめんと兼子くんも一歩下がった。



「私……、兼子くんの気持ち軽く扱ったから。」

『…。』



それに兼子くんは肩をすくめて無邪気に笑った。予想外の反応に首をかしげた。




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