イノセントカプセル

真実 /3

 自宅に戻った陽太はすかさず力に電話をした。
「力くんにも見て欲しいノートがあるんだ。明日は無理かな? 日中でいいよ。うん、それじゃ明日」
 疲れて床にゴロッと横になっている美月がしかめっ面をした。
「力くん来るの? 」
「うん。明日の昼間に来るって」
「お昼って、陽太くん明日もお仕事休むの? 」
「……休む」
 陽太も美月のように床に寝そべると、そのまま目を瞑った。
「休んで平気なの? 」
「平気じゃないよ。でも、このノートを読む方が優先なんだ」
「今、読めば」
「今から徹夜で読むのは辛いよ。それに、みんなで読まないとダメなんだ。オレと美月と力くん、このノートに書かれている内容は同じタイミングで共有しなきゃならない気がする」
「どうして? 」
 再び開いた瞳で真っ直ぐ天井を眺める陽太。
「一瞬なのに残酷な言葉をたくさん見つけた気がしたから」
 それから美月は何も喋らなくなった。
「熱で休んだことになってるんだ。一日で回復しないほうがリアルでいいよ」
 その晩、二人はいつもより長めのシャワーで垢を落とし、いつもより豪華な夕飯を食べ、いつもより早く眠りについた。
 ――ピンポン、ピンポン、ピンポンピンポンピンポン。
 翌朝、激しいインターフォンの音で陽太は目を覚ました。布団から飛び降り、慌てて玄関へ向かう陽太。誰だか確認もしないでドアを開ける。確認しなくても相手は解っている。
「おはよー。すごい寝癖だな」力は少し呆れた顔で言った。
「力くん……こんな朝早くに? 」
「は? 何言ってんだよ。もう十時だぞ」
 力に腕時計を見せられた陽太はぞっとして、彼を玄関に置き去りにしたまま自室に戻っていった。
 勝手に部屋に入り、リビングのテーブルに差し入れのドーナツを置く力。陽太の切羽詰まったような声が聞こえてくる。職場に休みの連絡をしているのだ。
 力はトントンと和室の襖を叩いた。
「美月? 」声を掛けるが返事はない。
 力は申し訳ないと思いながらゆっくり襖を開けた。まるで鶴の恩返しのようだ。
 窓のない和室は暗く、畳に転がっている物体が美月なのだろうと想像することしか出来なかった。
「みーづーきー」
 物体がもごもご動く。
「朝だぞー。起きろー」
 ムクッと人が起き上がるシルエットが見えた。
「……力くん? 」
「おう、おはよう」
「力くん、久しぶり」
 美月はパジャマのままでリビングに飛び出してきた。
 そうこうしている間に陽太が戻ってくる。
「誰と話してたの? 」尋ねる力。
「会社。今日も休むって連絡してきた」
「そうか。大丈夫だったか? 」
「遅れて電話したからリアリティーが増して結果良かったよ」
「悪い奴だな」
 昨日は緊張して心も身体も疲れていたことを思い知らされた朝だった。
 ブランチとして力の差し入れのドーナツをたいらげ一息入れた後、陽太は例のノートを持ってきた。
 テーブルの上にノートを置くと力が興味津々と覗き込む。
「青空、再生計画……? 何のことだ? 本当に園長のものなのか? 」
「読んでいけば解るよ。オレが音読してもいいかな? 」
 陽太の言葉に美月と力が頷く。
 陽太は二人の目を見て、咳払いをした。そして深呼吸する。
 表紙をめくれば、そこには真実が待っている。

「青空、再生計画――。あいつらに裏切られるかもしれない。そのときのために、真実をここに記しておく。
私たちは青空を愛していた。たった一人の愛しい息子。かけがえのない宝物で代わりになるものなんてない。私たち、深川洋三と深川民子の息子、深川青空。空のように大きく成長できるように、そう名付けた。それなのに、あの子は星になってしまった。たった四歳で、脇見運転のトラックにはねられ息を引き取った。神様、息子は何か悪いことをしたでしょうか。周りの子が成長するのを見るのが辛くなり、人里離れた長野県の田舎までやってきた。他の家から少し離れた場所にある新居はボロい平屋だけど、庭がとても広く、一本の大きな桜の木が植えられていた。私たちは毎日その桜の木を見ることで心を落ち着かせていた。

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