桜龍Ⅴ

第十章 /強いということ





何事も無かったかのように要の上から降りる。ちょっと、いや大分なにも無かったと言うには無理があったけど。



「絋、いまどうやったの」


「なにが?」


「要を転ばせたやつ」


「……分かんない。咄嗟にやったから必死で」

ぱちぱちと瞬きをする俊に、笑ってごまかす。でも半分本当なんだから仕方がない。勝手に身体が動いてしまったんだ。


「大丈夫?」


「……」


要はまだ半分放心状態で、ゆっくり上半身だけ起こしたまま、動かない。


……ちょっとびっくりさせすぎちゃったかな。


短く息を吐いて、顔を上げた。そしたら呆然と立ち尽くした仁と目が合った。




「どうしたの、仁も変な顔して」


「……お前、いまの」


「いまの?」


聞き返しても、仁はあたしをじっと見たまま少しの間口を閉ざした。


「……いや、いい」


「え?」


軽く首を振ったあと目を伏せてそのまま逸らした仁は、一瞬だけ微笑ったようにみえた。


それ以上なにも言わなくて、あたしも首を傾げた。



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