桜龍Ⅴ

第十章 /変化と戸惑い




次の日の朝、呆気なく臣達は帰っていった。いや、呆気なくではないな。酷いハグ付きの別れだった。起きたてほやほやのところで、突然の抱擁。何事かと思えば、引っ張られ、鼻の頭を固い胸板にぶつけ訳が分からなかったけれど、とりあえず痛かったのだけは覚えている。


思う存分揉みくちゃにされて、半分生気が抜けた最後の最後に、臣に煽られた。


まだ脳も完全に覚醒しないまま散々くしゃくしゃにされてふらふらして、凭れ掛かるように臣の胸板を借りる。


「お前はこれからもちゃんとこれを大事にしろよ」


背中に腕を回して、とん、と片耳を左胸に当てる。心臓の音を聞きたかった。生きている音が好きだと、教えるために。刻まれる音は落ち着いていて心地よくて、無意識にほっとした。


「ああ」


素っ気ない返事だなぁ。そんな素直に頷いて、本当に分かっているのかな。

すぐ粗末にするからな、こいつは。


前科がある分、いまいち信用できない。


それから、それからと、必死に言葉を探す。


「もうあたしのものだなんて言わなくていいから。臣は臣だけのものだよ。自分のために好きなことをして、欲しいものをたくさん傍に置いて、それで……」



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