『青春の記憶/心の中の大切な日記』【完】

後ろではゆりが大声で叫んでいる。

『健ちゃんーーー!!!』

『ゆり!!走れ!走れーー!』

俺には前から走る連中の姿は目に入らなかった。
ただフルートを・・・
という気持ちでいっぱいだった。


『これッ、私の死んだお母さんが
 保育園の時くれたんや。。
 お母さんが大切にしてたんや。。。
 だから私の宝物!!』


笑って話してくれたゆりの顔が浮かんでいた。


そのことを思うと同時に
フルートを覆うように地面に倒れた。

『おい!!!
 お前、何、俺らから逃げとんのや!!
 腹立つ奴やなぁ!
 俺たちはお前たちが
 逃げたから追いかけた!!
  ・・じゃなくて最初から
 目つけてたんやけどなー』

連中の大きな声が砂浜に響き渡った。

後ろを振り返るとゆりは遠く離れている。
連中の一人がゆりを追おうとした。
俺はその男の足を掴んだ。
その男は後ろに倒れた。

『痛いなぁ!なんちゅうガキや!!』
『なんやッ、こいつ!!』
『それにお前、何を大事に隠してるんッや!!!』
『こらッ、見せろ!!
 逃げてたくせによッ・・
 戻ってくるところをみると、財布かッ。。』

連中は俺が隠している物を取ろうとした。

俺はフルートを覆うように
ずっと地面に倒れたままだ。

『なんやッ!コイツ!
 早く、財布だせッ!コラーーー!!!』

俺は絶対に見せようとしなかった。

連中のひとりが俺の顔面に蹴りを入れた。
それと同時に全員が全身を力の限り蹴り始めた。
ギターは踏みつけられボロボロになっている。

『コラぁぁ!!しぶとい奴やなぁー。見せろッ!!』

そう叫びながら全身を蹴る連中。
俺は海老のように丸くなり
絶対にフルートを見せなかった。

頭のなかでゆりとおばさんの
笑顔が交互していた。

意識は朦朧としてきた。

でもフルートだけは離さない・・・
この思いだけが俺の意識を守った。  

その時、ゆりは駅の交番で
警官に助けを求めて海岸に
パトカーで向かっていた。

かすかにパトカーの
サイレン音が聞こえてきた。

連中はバイクに乗り逃げて行った。

砂浜にはただひとり
俺が倒れていた。

『健ちゃん…』

ゆりは震えていた。

俺は血だらけになり微笑んだ。


『ゆり、これ!宝物。。』


俺は服の中に入れてあったフルートを
血だらけの手で渡した。

救急車のサイレン音が
だんだんと近づいてきた。

『健ちゃん…』

ゆりの声がかすかに聞こえた。

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