怪異と私の恋物語【完】

第二章 波乱万丈 /予兆

人が倒れている研究室の中、
佇む一人の人影が一つ。
いや、人影というのはおかしいか。
何せ、俺は【人】では無い。


月夜に照らされ、
あらわになるその姿。
黒い髪は、白銀となり、
日本人特有の黒い目は、
紫色に染まっていた。


ハハハ、傍から見たら化け物だな。


全ての準備は整った。
全員から【俺】の記憶は消し去った。
もう、俺の存在を知る者はココには居ない。
アメリカ政府も俺の事はもう把握しては居ない。
俺の戸籍なんざ、もう存在すらしないのだから。



「主君、任務完了致しました」



影から現れる俺の配下。
あぁ、そういえばあんな事も言ったなと
遠い目で思う。



「っ、その傷はどうなされたのですか!?
その人間ども…食い殺しても?」

「いや、こいつらの所為じゃない。
ちょっとした害虫に噛まれただけだ」



そう言って変化を解けかけたアイツを制する。
全く、血の気が多くて本当に困る。
少しは俺くらいの余裕を持って欲しいものだ。


それにしても、菜舂の傍に居るアイツ…。
名は魁と言ったか?
きっと菜舂が付けたのだろう。
そもそもアイツには名は無かった筈だ。
戦を好んで、血を啜るのを生き甲斐と
していたような奴が何故、
俺の愛する菜舂の傍に居るのか、不思議でならない。


孤高の存在だか、なんだか知らないが、
若造が粋がりやがって…気に食わない。
あの程度で俺が死ぬと思って、
図に乗るのもいい加減にしろってんだ。


手から滴る血を、舌で拭い
傷口を封じる。
造作も無い作業。
痛みなんざもう何百年も昔に慣れた。
所詮簡単に死ねない身体なのだから。


何年生きたかなんてもう忘れた。
数えるのは、百を超えたあたりから辞めた。
老いる事の無い身体。
退屈な日々。
そんな中、訪れたのがアノ人間だったな。


怪異がまだ飛び交う世の中、
人間は、最下層におり弱い存在だった。
一番犠牲になるのは人間であり、
怪異にとって一番力を得やすい食糧だった。

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