怪異と私の恋物語【完】

何処か親しみのある瞳。
私は彼を見た事がある。
何処か遠い昔。
遠い記憶の中に封印された玉手箱の中。



ねぇ、貴方は何故そんなに悲しそうなの?



私から視線を外したのを合図に、
二人は、姿を消した。
そして、激しくぶつかり合う金属音が鳴り響く。
音の大きさが力の威力を示す。


私の動体視力ではついていけない、
俊敏な動き。
生死を分ける激しい戦い。
緊迫感が、息をさせる事を忘れさせる。


ソレが獣の咆哮を上げると、
鋭い爪が生えた腕を振り上げ、
弥鶴の腕に突き刺す。
痛みに顔を歪ませる弥鶴を見て、
思わず悲鳴を上げた。



「弥鶴っ!?」



私の悲鳴を聞いて、
脂汗をかきながら、私に向かって微笑む。
馬鹿、そんな事する余裕があるなら
怪我なんてするんじゃないわよっ!!


口パクで【だいじょうぶ】と伝える。
嘘つき。
床に滴る血の量は、
傷の重傷度合いを察するには十分だ。


私の悲鳴を聞いたもう一人の怪異は、
肩を振えさせた。
そして、頭に直接響いて来るその声。



『悲しい』

『一人ぼっち』

『愛されない』

『叶わない』



『愛してる』



悲しい感情が直接私に降り注がれる。
恐ろしいその姿とは裏腹に、
ソレは、悲しみに押しつぶされそうで、
もしも可能ならば、



抱きしめたい衝動に駆られた。



貴方は一人じゃないよと。
愛されていないなんて事はないよと。



自分をこれ以上傷つけないでと…。



激しく矛盾している私。
弥鶴を心配しながらも、
得体も知れないソレに同情している。


恐ろしいと思いながらも、
愛おしいと思っている。



誰かも分からないソレに。



世界を拒絶し、
全てに絶望し、
愛を渇望している怪異。


悪妖怪と呼ばれるには、
不釣り合いなほど、
子供じみたその感情。
愛を欲しているだけの子供。


そんな人を私は知っている。
だけど、彼とは似ても似つかない。
そういえば、【彼】は…



何処に居るの?



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