怪異と私の恋物語【完】

第三章 過去 /徒恋

桜は散り、蝉の鳴き声も朽ち、心寂しくも実りの多い秋の季節に時は移り変わっていた。
建物の外観は少々変わっており、数か月の時が流れたというより年単位で流れたような変貌具合だった。
紅く染まった紅葉が私と彰泰さんが出会った池に舞い降り、澄んだ池を紅く染め上げる。
橋を儚い瞳で見つめるは、年を重ね、経験によるものなのか、はたまた時によるものなのか、落ち着いた印象を与える艶美な彼。
遠巻きから御簾(みす)越しに端整な横顔を見つめ溜息をつく貴族の女性達。


私はそれを浮遊しながら見ていた。


どうやら私は、表舞台から強制的に退場させられたらしい。
意識を失い目覚めた次の瞬間には、季節は秋に移り変わっていた。
そして、季節は何度も移り変わっていたご様子。
私が知っている彰泰さんは年を取っていて大人の色気が更に増していた。
彼が身につけている束帯は、更に上質な物になっており、彼の出世具合が窺えた。
彼が望んだ未来の筈なのに、彼の顔には喜びや幸せといったものは欠片も映し出されていなかった。


幸せになれって言ったのになぁ…。


何を思ったのか、廊下から庭へと出た彰泰さん。
初めての無重力体験に戸惑いながらも私は、彼のあとに付いて行く事にした。
庭の池に立ててある橋の手すりにそっと触れると、ふっと笑みを浮かべる。
そして、彼は小さな声で歌を詠んだ。


「いにしへになほ立ちかへる心かな 恋ひしきことにもの忘れせで」


‥一体、今の和歌にはどんな意味があるのだろうか?
生憎、私は国語の授業、和歌に関してはさっぱりだ。
一体何を思って、彼はこの歌を歌ったのだろう?

池に沈む紅葉を見ている彼の目の前へと浮遊しながら移動する。
彼の顔には今にも泣きそうな笑みが浮かべられていた。

0
  • しおりをはさむ
  • 2994
  • 107
/ 286ページ
このページを編集する