怪異と私の恋物語【完】

第三章 過去 /断絶

「では、藤の君様、お気をつけて‥」

「うむ、では参るぞ」


景色は一面白く染まり、雪が降り積もっている。
季節は、静寂の冬に移り変り、冷たい空気は心を凍らせる。
束帯からどちらかというと身軽に動ける服装の彰泰さんは、白馬に乗り門を出た。
深々と降り注がれる雪。
息を吐けば、白い靄が視界を覆う。

実体の無い私には、寒さが感じられない。
まるで幽霊にでもなった気分。
死んで未練を残した幽霊は、きっとこんな気分なのだろうか?
なんて、場違いな事を考えてみる。

真っ白な世界に青い随身に身を包んだ彰泰さんは、とても目立つ。
向かう場所は、私は会話を聞いて知っている。
こんな寒い季節、それも雪の積もったこんな日に出掛けるなんて無謀だ。
何故こんな時期でなければならないのか。
理由は明白。


アノ馬鹿帝が命じたからだ。


嫌な予感しかしない。
彰泰さんが向かう場所は、遠い山。
そこに山賊が現れるとの事でその問題を解決しろとのことだ。

こんな仕事はもっと違う身分の低い者に頼むべきものだということは、この時代に生まれていない私ですら分かる。
彰泰さんもきっと気付いている筈だ。
だからこそ、彼の腰には身を守る為の日本刀があるのだから。

この時期に山賊?
山賊だって、こんな冬の季節に襲うわけがない。
ただでさえ雪で足場も悪いのだから、通る人間もそういない。
なのに、退治するように命じる帝…どう考えても不審な点が多い。
本当の目的は山賊を退治し、安泰を求めるものではない。
だとすれば、狙いはただ一つ。


彰泰さんの命だ。


簡単な消去法。
私ですら導き出せた答え。
あれだけ悪意の持った発言を聞いたらどれだけ彰泰さんに嫌悪感を抱いているのかよく分かる。
きっと彰泰さんもなんとなく分かっている筈。
だから動きやすい服な上に、神経をはりつめていた。

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