怪異と私の恋物語【完】

第四章 選択肢と決断 /後悔

何かが自分と誰かを繋ぎとめる糸が切れる音がした。
扇子を振り上げた手を中途半端な位置で止める。
五感が全ての機能を停止させた。
目の前に居る、八咫烏も同じく時が止まったかのように微動だにしない。

何かが変わった気がした。
いや、確実に何かを失った。
何かは分からない。
だが、嫌な予感しかしなかった。

先刻までの激戦が嘘だったかのように、静まる。
嫌な静けさだ。
聞こえるのは、己の心音と吐息だけ。

ごくりと唾液を呑み込む。
汗が地面に滴り落ち、染みを作る。

何なのだろう、気分は。
自分ので何かが途切れる音がした。
それは、どうやら自分だけではなく、目の前に居る八咫烏もそうなようで、困惑した顔を見せている。

血が頭に上り思わず、目の前の相手と剣を合わせ、血生臭い戦いを繰り広げてしまっていた。
しかし、突然冷水を浴びたかのように冷静になる頭に妙な違和感を覚えた。
そう、自分を怪異へと変貌させた張本人に菜舂様を巡って戦っていたのだ。
【契約】が無効になるという聖域に変えたと言われ、すぐに反応してしまった。

無効になるということは、菜舂様と奴を繋ぎとめるモノが無くなると言う事。
つまり、奴の息が事切れたとしても、菜舂様には何の影響も無いという事だ。
無論、自分と菜舂様の契約も無効となり、主従関係では無いという事にもなるが、勝てば官軍。
勝利を得てしまえば、どうにでもなる。



そう思っていた。



だが、今…確実に何かが自分の中から消えた。
そして、それが何かを知るのが酷く恐ろしく感じた。
何事も畏れる事等無い筈の自分。
死すら恐れるに足らない筈なのに、何故自分はここまで怯えているのだろう?

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