怪異と私の恋物語【完】

第四章 選択肢と決断 /幸福

菜舂。
愛しい俺の菜舂。
お前は、そこまでしてそいつを救いたかったのか?
俺と過ごした時間の方が長かったというのに、お前は俺を選べなかったのか?

いや、当然だ。
お前は優しいもんな。
どちらかを選ぶ事なんて出来ない。
全員の幸せを願う、女神のように慈悲深い愛しい人。



そのお前はもう居ない。



契約が壊れた音がした。
その時、お前が消えた事にすぐに気付いた。
天照に心臓を貫かれた姿を見た時、俺の中で確実に何かが失われた。

なぁ、菜舂。
俺は何で大天狗のようにお前の死を悲しんで泣けないのだろう?
俺は、確かにお前の事を愛していた。
なのに、何故こんなにも冷静にお前の死を受け入れられるんだろう?

菜舂…俺にとってお前はなんだったんだろうな?
大切な妹?
愛しい花嫁?

俺は、一度だけ、お前以外の人間に恋をした事がある。
天照の使者として人を導いた時、一人の娘に恋をした。
その娘に金銀財宝、彼女が求める者は全て与えた。
愛していると囁けば、彼女も微笑んで愛していると返してくれたんだ。
だけど、一人の人間の男が現れて、彼女は何とも無かったかのように俺を捨てたんだ。


そう、俺を捨てた。


その時、生まれたばかりの俺は幼さが故分からなかった。
裏切られたとばかり思って、俺は彼女を憎み、男を憎み、食い殺した。
憎悪に満ちた瞳で彼女を切り裂く直前、彼女は俺を見て目を見開いていた。
だけど、叫びもしなかった。

助けを乞う事も出来ただろうに、しなかった。
愛していたと、俺は最後に彼女に言い、そして腹を貫いたんだ。
彼女は、俺の言葉を聞いた時、泣きそうな笑顔を見せて、



果てた。



0
  • しおりをはさむ
  • 2994
  • 107
/ 286ページ
このページを編集する