怪異と私の恋物語【完】

最終章 これが怪異と私の物語 /捕獲

「いってきまーす…」


誰も居ないマンションの一室に声をかける。
無事就職活動を終えた私に両親がプレゼントとして何が欲しいかと私に聞いたのをきっかけに始めた一人暮らし。
最初は、反対されたけど、もう親離れしなければならないと思ったから私は自分の意見を通した。
そして結果はご覧の通り、親の方が折れて、心配されながらも一人暮らしの許可を得た。

不景気のお陰か、礼金無しで敷金オンリーと3カ月分の賃貸料でいい物件が見つかった。
落ち着いたら両親にお金は返すつもりだ。
やっと終わった研修期間。
今日からやっと新社会人としての一日が始まる。

初めての一人暮らしは、とても大変だった。
掃除、洗濯に料理。
今までお母さんに任せて来た家事。
改めて母親の偉大さを痛感した。

高校・大学を卒業し、なんとなく流されて就職した私。
正直、思い出という思い出がまるで思い出せない。
ただ淡々と繰り返される、色も何も無い毎日を送っていた。
楽しくも無く、家に帰ってもあるのは人の居ないお迎え。

何だか心の中に大きな穴がぽっかりと空いたような喪失感と共に私は6年間を過ごしてきた。
何かが足りないという、何の根拠も無い疑問。
家に何故か一室だけ空いている部屋があったからかも知れない。

何度かそこに入ったけれど、誰かが使っていたような形跡はあるものの、何も無かった。
そこに確かに人は居たと思う。
だけど誰かは、全く思い出せなかった。

アルバムをめくっても、何かが欠けていて、それが何か思い出せない歯がゆさ。
思いだそうとしても、何かに硬く閉ざされているかのようにそれは開かれない。
そんな気持ち悪さを抱えながら、私は大人になってしまった。

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