怪異と私の恋物語【完】

第一章 主と僕 /嫉妬

―ベキッ

彼の手に握られていた鏡は、まるで砂糖菓子のように簡単に粉々になって床に落ちた。
破片によって傷つけられ手から滴るのは、彼の血。


「だ、大丈夫ですか、山上先生!?
て、手から血がっ…」


若い女教師が、青い顔で彼に寄って来るが、彼は、それを気にする事無く無表情で空を見つめる。
その黄金に輝く瞳には、怒りの色が見えていた。

手の痛み等感じていないかのように鏡の残骸を手放し刺さっている破片を一気に引き抜く。


「山上、せんせ、ぃ?」


幸い彼女以外の教員は、教員食堂やら、何処か別の場所で昼食を取っているのか誰もいなかった。
冷たい瞳で、女性教員を捕える。

ヒッ、と悲鳴を上げた女性教員だが、彼の瞳を逸らさずにいると、彼女はまるで人形かのように目から光が失われ、元に居た彼女の席に着きボーっと座る。


まるで、何も起こっていなかったかのように。


席から立ち上がるとペキリと鏡の破片が
壊れる音がする。
赤い色と銀が混じりあいなんとも不気味な雰囲気を漂わせている。

眼鏡を取りそれを胸ポケットにしまう。
そして、血が出ている傷口に舌を這わせ、血を舐めとる。


「調子に乗りすぎですよ、【化け狐】の分際で…」


彼は、鏡越しに全てを見ていた。
愛する主が、護衛を指名した自分の使いを
気遣い、手をつなぎ昼食を共にしている姿を。
自分の僕が、何処か幸せそうに、自分の主に触れ、主がソレに笑みを向けているのを。


「菜舂様に触れていいのは、私だけ。
…彼女は私だけの者。
彼女の寵愛も、優しさも、全て私だけが受け取るべきもの。
誰にも渡さない。
渡すものか…最愛なる我が主」


10年も待った。
彼女の為に全てを用意し、全てを片付け、様々なものを犠牲にした。


「お仕置きが必要みたいですね、7つしか尾を持たない【化け狐】が」

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