怪異と私の恋物語【完】

第一章 主と僕 /再会

「菜舂ちゃーん、朝ごはーん!」

「はーい!今いくーっ!!」


急いで髪を結んで制服の皺を伸ばす。
都会に移ってから早10年。
私が遭難し、奇跡的に無傷且つ健康体で見つかってから10年。
本当に早かったなぁ…。

幼いながら【死】を目の前に突きつけられた記憶はあるが、何故助かったかまるで覚えていない。
夢にも何度か出てくるある【物体】が居るけれど、それは【人】ではないと何処かで認識している。

まぁ、所詮は夢なのだからと思いながら、私の心のどこかでやりきれない気持ちを抱えている。

私が遭難してから両親は、山に囲まれた田舎からすぐに都市へと移った。
最初はコンクリートとビルに囲まれ、緑の無いこの場所に酷い違和感と冷たさを感じたものの、今は少し慣れた。

でも、今でも恋しい。
あの綺麗な空気。星が鮮明に光輝く空。虫の鳴き声、鳥のさえずり。
都会では何もかもが違う。
緑は無い。空気も苦く感じる。

便利さで言えばやはり都会はいい。
交通手段はいくらでもあるし、コンビニは半径1キロ圏内に何件もある。服も選び放題。美味しい食べ物も密集している。
ネオンライトは独特の美しい光を放つし、情報もいち早く手に入る。

でも、この都会の人々はとても冷たく感じてしまう。
世間の目を気にするにも関わらず、近所と関わりを持とうとしない。
生気を失った機械じみたこの町。
若者は、何処か大人びていて、私にはついていけない。

電車の中に入るとすぐに携帯を取り出していじりだす人々。
皆、こんな大きな窓の外を見ては居ない。
この灰色の現実をから逃避するかのように下を向いて小さな画面から視線を逸らさない。

私はそんな人間味の無い都会の人たちがとても怖く感じられる。
田舎の山に囲まれていた頃はまだよかった。皆あたたかかった。
6歳ながらも鮮明に覚えている。

10年も経つのに染まれ切れない私。友達はいる。
だけど、それは本当に【友】と呼べるのかどうか分からない。
ただつるんでいるだけなのかもしれない。
一人になりたくないが故に一緒にいるだけ。

持たされている携帯も私を縛り付ける鎖でしかない。
メールが届けばすぐに返信を求められ、電話がくれば応対しなければならない。

誘いを断れば、嫌な雰囲気になる。
都会の人はそんなものなのか。
それとも私が住んでいた田舎が特殊だっただけなのか。

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