怪異と私の恋物語【完】

間章 夢の中で

―ベキンッ


フラスコに珍しくヒビが入って割れた。
俺としたことが珍しい。
他の皆も笑いながらお前らしくないと言った。
こんな初歩的なミス、犯すはずが無い。
何か嫌な予感がする。


彼女に何かあったのだろうか?


異国に身を置いている今、愛しい彼女の身を案じることしか出来ない無力な自分に腹が立つ。


あの時もそうだった。


眼を離したスキにやられた。
あれは全て俺の責任だ。
俺だけの秘密。


俺だけが知っている真実。


愛しい妹である菜舂。
愛して止まない。
家族なんていう域は、当の昔に越えてしまった。

この感情は、兄妹愛なんていう安っぽいものではないし、そんなもので終わらせる気は更々ない。
彼女はきっと知らないだろう。
【兄】である自分が抱いている醜く、恐ろしいこの感情を。

彼女の周りに居る異性は全て自分が排除してきた。
この頭脳を駆使して、全てから守って来たつもりだった。
それが俺の存在意義。
それがあいつとの


契約だから。


「おい、弥鶴。
そろそろ帰れー。
きっと疲れ溜まってんだろ。
愛しの妹ちゃんが心配かぃ?」


茶化す黒人の研究生。
俺より遥か【年下】の男。
あぁ、でも外見は年上だ。
そういう風に“設定”されているから。


「あったりまえだろ!
俺の妹は、世界で一番可愛くて、愛しいんだからな!」

「いい加減シスコン治せよー。
前もアノいい女振ったんだって?
いい顔してんのに勿体ない…。
俺によこせこの野郎!!」


やりたきゃやる。
俺にはあんな女興味無い。
顔なんて所詮、頭蓋骨に張り付いた皮の造形に過ぎないだろう。

菜舂の美しさは違う。
俺は、ずっと彼女を見守って来た。
彼女の家系を見守って来た。
一番近い【兄】という存在に身を置いて、彼女の傍で成長を見て来た。

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