マイナスの矛盾定義Ⅰ

drop /逃亡




―――屋上。


夏を感じさせる夜風に当たりながら、私はゆっくりと歩いていた。



「建物の西側に、迎えを用意してくれないかしら」


『おっけぇ。近くの奴を迎えに行かせるよ』



ピアスの向こうのシャロンは、特に腹を立てている様子もない。


それに腹が立つ。私は失敗したんだ。こんなところで優しくされたくない。


いっそ、罵ってくれた方が良いのに。



「…シャロン」


『ん?』


「ごめんなさい、手間を掛けさせて」


『謝るのは後にして。アリスの失敗は俺がどうにかするしぃ、アリスのことは俺が守る。俺が拾ったんだもん』


「……」


『それに――後でたっぷり叱ってあげるつもりだしぃ?』



シャロンらしいその台詞に、少しだけ笑みが漏れた。


彼はこういう時、下手に私を慰めたりしない。



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